図書館長のお勧め図書:4月

ウィーン・フィル 音と響きの秘密」

中野 雄(なかのたけし)著 文春新書

 音楽プロデューサーやレコード(CD)批評家として活躍している著者が、活動の現場で接してきた、ウィーン・フィルのメンバーを中心とする音楽家たちの含蓄の多い言葉や、演奏にまつわるエピソードを通して、作曲者と楽譜と演奏家と聴衆の間を伝わってゆく「音楽」と言うものを、説得力のある文章で叙述している。ウィーン・フィルをタイトルに掲げているが、それよりも、もっと広く音楽とは何か、演奏とは演奏家とは何か、と言うことの答えのヒントになる言葉やエピソードが数多くちりばめられ示唆に富んだ読み物である。

 なお、同著者の「丸山眞男 音楽の対話」も音楽を学ぶものにとって教えられるところの多い好著である。



「これでいいのかにっぽんのうた」

藍川由美(あいかわゆみ)著 文春新書

 著者は東京藝大大学院博士課程修了のソプラノ歌手。日本歌曲を学ぼうとするものにとって、極めて示唆に富んだ著作である。前半は洋楽輸入期の文部省唱歌についての記述が中心であるが、後半に、日本語の発音についての含蓄に富んだ研究が論述されており、声楽を学ぶ人々にぜひ読んで貰いたいと思う。



「・・・の音符たち」シリーズ


池辺晋一郎(いけべしんいちろう)著 音楽之友社

 作曲家、東京音楽大学教授、NHK教育テレビN響アワーの解説でおなじみの著者が、バッハ、モーツァルトブラームスシューベルトの作品について、楽譜に記された「音楽」の「かたち」を作曲家としての視点からユーモアに富んだ筆致で分かり易い読み物に仕上げている。コーヒーブレイクのような話題として、「モーツァルトの音符たち」の交響曲『ジュピター』の章に書かれている話は興味深い。ブラームスの4曲の交響曲の調は「ハ・ニ・ヘ・ホ」(ドレファミ)である。そして、『ジュピター』の第4楽章のテーマは「ハ・ニ・ヘ・ホ」(ドレファミ)である。さらに、シューマンの4つの交響曲の調は「変ロ・ハ・変ホ・ニ」(移動ドでドレファミ)なのである。なぜかは判らないが・・・。